2019年日本熱傷学会専門医試験を振り返って
−来年の申請者のために−
一般社団法人 日本熱傷学会
専門医試験委員会
委 員 長 安田 浩
(産業医科大学病院 形成外科)
日本熱傷学会では専門医制度があり,多くの方に取得していただくよう願っております。来年以降の受験者のために今年の専門医審査で気づいたこと,専門医試験委員会で話題になったことを述べたいと思います。
審査は委員による書類審査から始まりますが,例年不備が多く見られました。昨年よりこの総評を掲載するようにしましたが,以下の点が昨年にくらべてかなり改善され書類審査で問題になることが減りました。そのため昨年と重複する部分が多いのですが再度注意点を掲載します。
- 1)全体の審査の流れについて
- 申請書類は学会ウェブサイトに公開している手引きにそって正確に,また条件を満たすように作成してください。この部分が不十分であると書類審査の段階で不合格となります。不明な点は学会事務局までお問い合わせください。
- 書類審査に続いて筆記試験を行います。回答は選択式です。書類審査,筆記試験の結果によっては当日面接を行うことがあります。
- 2)書類審査について
- 熱傷治療は急性期の初期対応,全身管理から外科的治療,慢性期の瘢痕治療など多岐にわたるため,熱傷専門医はこれらの項目を十分に理解していることが必要です。そこで治療項目を10項目にわけ,そのうち5項目以上を経験することを求めています。さらに実績報告書Aでは具体的な治療,管理内容を15項目に細分化し,それぞれ3症例を記載するようにしています。そのため経験症例を細分化された項目に重複して提出することも認めています。これは講習会受講での振替も認めておりますができるだけ経験症例を提示していただくことが望ましいです。
- 重複症例の場合,内容がcopy and pasteされていることはある程度仕方ないのですが,その項目において書いてほしい部分が追加されていないなど,審査をする上で項目が異なるのにあまりに同じ内容の記述があることが見受けられます。例えば輸液の項目では,公式に従った,ということだけでは書類としても実際の診療としても不十分です。植皮術の項目で分層採皮の厚みの記載や採皮部位の記載などは必須です。また壊死組織切除ではどのように壊死切除(tangential? vertical? 出血が見られる層まで? 筋膜上?)を行ったかなどの記載に乏しい書類が見受けられました。単に分層植皮を行った,壊死切除を行った,だけでは十分な技量,知識があるのかに疑問を抱かざるをえません。各項目に応じてその項目では何が重要かを十分認識して記述してください。
- 熱傷専門医診療報告書Bに関しては5症例の治療経過を報告する形式にしていますが,手引にあるa)病態の評価,b)初期の治療方針,c)実施した治療内容と経過,d)診療終了後の総括,の形式に沿わない書類も多くみられました。熱傷治療に関しては初期の評価と治療目標を明確にすることが重要ですのでこの形式にそって書類を作成してください。
- 熱傷治療の特性上,救急科の受験者は形成外科的な内容の記述に乏しく,形成外科の受験者は全身管理の記述に乏しい場合が見られます。主たる治療をご自身あるいは自科で行っていない場合もあるかもしれませんが,各項目で重要なポイントを整理すれば適切な記載ができると思います。自分で主に担当できなかった場合は担当した先生と相談して的確な記述をしてください。
- また治療材料などや薬剤を各施設独特の名称で記載されていることがあり,審査者に理解できない場合があります。申請書類では一般的な名称を記載するように努めてください。おそらく変換ミスであろうと思われる誤字もよく見られます。
- 3)口頭試問について
- 書類に不備が多い場合,熱傷治療の内容,意図等が明確でない場合,筆記試験結果が悪い場合は筆記試験後口頭試問を行うことがあります。目的は熱傷専門医として熱傷治療の計画立案,実施ができるかどうか,どのような姿勢で熱傷治療に臨んでいるかを知るために行います。
- 以上,今年の認定審査を行って気づいた点を述べました。特に実績報告では各項目で何がポイントかを理解していることが熱傷専門医として必要であると考えています。申請の手引きを熟読して,審査者に,あるいは誰にもわかりやすい内容にまとめていただくことを期待しております。多くの先生方の申請をお待ちしております。